古代から日本の物流を支えた歴史的古道

「塩の道」は、日本海に面した新潟県糸魚川市と長野県松本市を結ぶ全長約120kmの古道です。この名で呼ばれるようになったのは近年のことで、「千国街道」「松本街道」「糸魚川街道」「仁科街道」「越後道」とも記されることもあります。

その歴史は古代まで遡るといわれております。それを裏付けるように長野県和田峠で採掘された黒曜石(矢じり)が青森県の三内丸山遺跡で、糸魚川市の姫川支流の小滝川で採れたヒスイが長野県の縄文遺跡でそれぞれ発見されています。このことから、古代の「塩の道」は「ヒスイの道」として利用され、縄文時代にはすでに日本海側と内陸側で物流があったと考えられています。

塩の道は、その後も物資の送付、移動手段、軍事的要路としても利用されていたようです。近世に入ると、塩の道は千国街道と呼ばれ、塩・干物・塩肴・昆布などが越後から信州へ、大豆・小豆・朝・茶・麦・木綿などが信州から越後へ送られました。当時の交易は、糸魚川にあった「信州問屋」といわれる6軒の問屋が独占していたそうです。彼らの利権は上杉謙信の頃に始まったとされ、1604年には越後側に置かれた番所の通行手形の判が、これらの問屋に与えられた(認可された)といいます。

塩を中心に、様々な物資の輸送が行われるようになった千国街道は、日本海と内陸を結ぶ貴重な輸送路でした。厳しい自然や険しい地形に囲まれていたにもかかわらず、この街道が利用されたのは、街道沿いの住民にとってかけがえのない道だったからといえるでしょう。

塩の道の歴史を散策できる「塩の道トレイル」

かつてはヒスイや生活に欠かせない塩や海・農産物が行き来した「塩の道」は、現在ウォーキングやトレッキングが楽しめる「塩の道トレイル」として整備されています。 8市町村にまたがるこのロングトレイルには魅力ある見所が数多く、歴史的史跡・四季折々の自然・温泉・グルメなどを目的に応じて楽しむことができます。なお、「塩の道トレイル」では大糸線に沿って11行程にエリア分けしたコースが設けられています。

〇塩の道「トレイルコースガイド」

  1. 大地を感じる、眺望の道/糸魚川駅~根知駅
  2. 街中から最初の峠道・中山道までのバリエーション豊富な道で雨飾山に続く頚城の峰々が絶景コース

  3. 祈りが息づく、清廉の道/根知駅~平岩駅
  4. 大綱峠道を筆頭に急勾配の峠道を越えていくこの難所は各行程の中で、最も往時の面影を色濃く残すコース

  5. 瀬音を辿る、癒しの道/平岩駅~中土駅
  6. 千国古道のシンボル「白山社の大杉」を含む、姫川を瀬音が山路に沁み入る幻想的なコース

  7. 史跡を歩く、信仰の道/中土駅~白馬大池駅
  8. 塩の道の特徴をすべて体験できる道。白馬山渓、水田にまわる水車も見える風景が見どころのコース

  9. 峰々を仰ぐ、荘厳の道/白馬大池駅~飯森駅
  10. 白馬岳から派生する峰々の雄大な景色が堪能できるコース

  11. 神秘を訪ねる、山麓の道/飯森駅~簗場駅
  12. 樹齢500年の枝垂桜をはじめ、厳冬期の霧氷、田園風景、高層湿原などの自然をあふれるコース

  13. 歴史を紐解く、文化の道/簗場駅~信濃大町駅
  14. 戦国末期の豪族・仁科氏が納めた大町の京文化を取り入れた神社、仏閣を見ることができるコース

  15. 山麓を行く、展望の道/信濃大町駅~信濃松川駅
  16. 北アルプスを眺めながら、平坦で開けた道を歩くコース

  17. 散歩道を聴く、芸術の道/信濃松川駅~穂高駅
  18. 美術館や博物館が道沿いに点在する芸術の道で、アートが楽しめまるコース

  19. 農地の散策、生命の道/穂高駅~豊科駅
  20. 北アルプスを望む、わさび農場やそば畑がやわらかく力強い風景を作り出しているコース

  21. 城下町が佇む、繁栄の道/豊科駅~松本駅
  22. 国宝松本城をはじめ、城下町散策が楽しめるコース

また「糸魚川エリア」「大北エリア」「小谷エリア」「白馬村エリア」「池田町エリア」「大町エリア」「安曇野エリア(安曇野の歩き方)」「松本エリア」のモデルコースもおすすめです。

「塩の道トレイル」はコースによって平坦なエリアもあれば、山道を歩くこともあります。歩きやすい服装はもちろんのこと、山道コースではトレッキング用の服装・靴を準備するようにしてください。また熊やイノシシ、ハチ、マムシなど遭遇することもあるため、鳥獣対策を立てることも必要です。

なお、「塩の道トレイル」の名は、上杉謙信が好敵手・武田信玄に塩を送った「敵に塩を送る」という『義塩』の故事にも由来しているそうです。これは今川氏真に「塩留め(経済封鎖)」されて苦しむ信玄に対し、義憤にかられた謙信が塩を送った話が元になっています(ただし、言い伝えについては諸説あり、史実ではないともいわれています)。

各エリアで開催される「塩の道祭り」

「塩の道」関連エリアでは、各種イベントも催されており、そのひとつが「塩の道まつり」です。ゴールデンウィーク前後の期間に、糸魚川をはじめとする数か所で開催されています。その皮切りとなるのが、毎年5月2日に塩の道の起点・糸魚川で行われる「塩の道起点まつり」です。

これは糸魚川駅から塩の道を根知駅まで(約10km)を歩くイベントで、日本海の眺めと新緑の古道を堪能することができます。また、ガイドによる歴史案内、茶屋での休憩もあるそうです。

「塩の道起点まつり」を皮切りに、5月3日からは順に小谷村・白馬村・大町市で、それぞれ約10kmを歩く「塩の道祭り」が開催されます。起点まつりと同じく、途中の休憩所では、地元の人たちから漬物やおはぎなどが提供され、地元ボランティアが神社や自然環境について説明してくださるそうです。

ハイキング、トレッキング愛好家はもちろん、歴史好き、お花見散歩が趣味の方まで、幅広く楽しめるお祭りですので、一度参加されてみてはいかがでしょう。